『 どうなってるんだろう、子どもの法律』より
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~パパがママをバカにしたり殴ったりする~
2017/09/01 20:30:00
……………
パパは,子どもの私には優しいんですが,ママにはいつも,「こんなまずいメシしか作れないのか」「何もできないくせに」「バカヤロウ」「人間のクズ」「誰がかせいだ金で食ってると思ってるんだ」とか言い続けたり,「出て行け」と突然大声でどなったりします。ひどいときは,パパがママを殴ったり,蹴飛ばしたり,テーブルに置いてあった物をママに投げつけたり,部屋のドアをわざとバタンと勢いをつけて閉めたりします。パパとママの大人どうしのことだし,子どもの私には何もできなくて,つらいです。
……………
家は,
ゆっくりと心と体を休めて,毎日の生活を出発するための場所,
ゆっくりと心と体を成長させて,将来の人生を準備するための場所です。
それなのに,両親の仲が悪いと,
心が休まらず,ほんとうにつらいですよね。
特に,お父さんからお母さんに一方的に暴力・暴言があるのだと,
お母さんを助けようすれば,
お父さんの暴力・暴言が,今度は自分に向かってくるかもしれないし,
お母さんへの暴力・暴言が,むしろもっとひどくなるかもしれない。
かといって,お父さんの味方をして,お母さんを傷つけるわけにもいかない。
どうすればよいのか,とても苦しいと思います。
こういう苦しさがずっと続くのは,あなたの心の成長にとってもマイナスです【★1】【★2】。
お父さんからは,あなたに対しては暴力・暴言がない,ということでしたね。
それでも,お父さんがお母さんに暴力をふるったり,暴言を言ったりするのは,
子どものあなたに対する虐待,「児童虐待」にあたります。
平成16年(2004年),児童虐待防止法という法律が改正されて,
親から子どもへの暴力や暴言がなくても,
お父さん・お母さんの間の暴力や暴言は,
子どもにとっての虐待の一つ,子どもの心を傷つける「心理的虐待」だと,はっきり付け加えられました【★3】。
ここにいていいんだと思える,しっかりした居場所があること。
安心した毎日を送り,幸せな人生を送ることができること。
法律は,それをとても大事にしています。
「お父さんからお母さんに暴力・暴言があって,家にいるのがつらい」,
「大切な居場所のはずの家が,安心・安全な場所になっていない」,
そんな子どもたちを,法律が守っています。
お父さんとお母さんの関係が悪いのは,あなたのせいではありません。
自分自身を責(せ)める必要は,まったくありません。
あなたが安心・安全な暮らしを送れるように,
ぜひ,まわりの大人たちにSOSを出してください。
私たち弁護士は,あなたのSOSを受け止めます。
そして,一緒に考え,動くことができます。
各地の弁護士の相談先は,「弁護士に相談するには」の記事を見てください。
市役所や区役所の中には,子どもを守ってくれるところがあります。
東京では,「子ども家庭支援センター」と言います。
あなたから直接連絡をしてもいいですし,
学校の先生,地域の民生児童委員さん,そのほか誰でも,
あなたが信頼できる大人を通して,連絡してもらってもかまいません。
お父さんからお母さんへの暴力・暴言がひどければ,
児童相談所や警察に間に入ってもらうこともありえます。
児童相談所の全国共通の電話番号は,「189」です。
特に,夜や休日にひどい暴力があった時は,
110番をかけて警察に家に来てもらうか,近所の交番にかけこんでください。
警察は,あなたのお父さん・お母さんと話をし,児童相談所にも連絡してくれます【★4】。
自分がまわりの大人にSOSを出したら,
「どうして家の中のことを外の人にペラペラしゃべったんだ」と怒られるんじゃないか,とか,
お父さんが警察に逮捕されてしまうんじゃないか,とか,
家族がバラバラになってしまうんじゃないか,とか,
そういったことが心配でまわりの大人に相談しづらい,と思うかもしれません。
あなたのその心配は,もっともなことです。
まわりの大人は,あなたのその気持ちにも寄り添って,一緒に考えます。
だから,あなたの心配も含めて,ぜひ,大人に相談してください。
お父さんがまわりの人から暴力・暴言をやめるように注意されて,きちんと反省し,
家族仲良く暮らせるようになるのが,一番よいことです。
お父さんに,だれが,いつ,どうやって注意をするか,
傷ついているお母さんを,どうやって支えるか,
それを,まわりの大人たちと一緒に考えましょう。
ただ,家族仲良く暮らせるのが一番よいこととはいっても,
暴力・暴言があまりにひどければ,
お母さんがお父さんから逃げることが必要だったり,
警察がお父さんを逮捕しなければならないことも,あるかもしれません。
お母さんは動かないけれど,あなたがこれ以上家にいるのがつらい,という場合は,
あなただけ安全なところで守ってもらう,ということもできます(「親の虐待から逃げてきて家に帰れない」の記事を見て下さい)。
そういったことも合わせて,まわりの大人たちと一緒に考えましょう。
むかし,夫婦の間の暴力・暴言は,
単なる夫婦げんかとして見られていました。
でも,学校や職場や街中で,誰かを殴ったら,犯罪として処罰されます【★5】。
それなのに,「夫婦だったら殴ってもいい」というのでは,まったくおかしなことです。
相手をバカにする言葉も,もし社会の中で誰かに言おうものなら,
いじめやハラスメントとして,大きな問題になります。
それなのに,「夫婦だったらバカにしてもいい」というのでは,やはりおかしなことです。
私たちは,一人ひとりが,大切な人間です【★6】。
誰かの物でも,誰かの人形でも,誰かの奴隷(どれい)でもありません。
それは,夫婦の間でも,同じことです。
国のおおもとのルールである憲法にも,
夫婦は,お互いを大切な人間として尊重しあい,対等な立場で,協力しあって続けるものだと,書かれています【★7】。
ところが,実際には,
家の中で,夫が妻に,
暴力をふるったり,
バカにしたり,
生活費を渡さないなど,お金でコントロールしたり,
電話やメールを細かくチェックし,行動を監視して,自由を奪ったり,
嫌がっているのにセックスをむりやりしたりして,
夫が妻を,まるで物や人形や奴隷のように支配することが,あちこちで起きています【★8】。
そういう暴力・暴言を受けて傷ついている人を守り,
そういう暴力・暴言をこの社会からなくしていくために,
2001年(平成13年)に法律ができました【★9】。
その法律に基づいて,相談先が作られています【★10】。
あなたからお母さんに,そういう相談窓口を勧めてみるのも,一つの方法です。
DVという言葉を,皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
DVは,ドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence)の略です。
「家庭内暴力」と訳されることも多いですが,
けっして「暴力」だけでなく,暴言や,相手を傷つけること,支配することすべてが問題ですし,
けっして「家庭内」の夫婦だけでなく,交際中の10代・20代のカップルの間でも,問題になっていることです【★11】。
あなたやお母さんのようなつらい思いを,誰もがしなくて済むように,
私たちみんなで,この社会から,DVをなくしていかなければなりません。
10代の皆さんは,結婚はまだ先のことと思うかもしれません。
でも,皆さんには,10代の今だからこそ,
今付き合っているパートナーや,将来付き合うパートナーとの間で,
お互いを大切な人間として,対等な立場で尊重しあうことを,
お互いがDVの加害者にも被害者にもならないようにするために,
今のうちからきちんと身につけてほしい,と,私は強く願っています。
【★1】 「DVがある家庭では,子どもは様々な心理的葛藤(かっとう)を抱(かか)えることになります。…例えば,父親が母親のことを子どもの前であざけりバカにするような,精神的暴力を行っていたとします。『おまえのつくったメシはまずい』『主婦失格だ』『人間失格だ』などと罵(ののし)っている最中に,子どもはどのような態度を取ることが正解でしょうか。父親のことを無視したり,母親の味方になって反論したりすれば,自分に今度はその暴力の矛先(ほこさき)が向かうかもしれませんし,こうした反抗的な態度を『母親の育て方のせい』と一層母親を責め立てる材料にして,暴力がエスカレートするかもしれません。では,父親に迎合(げいごう)して,一緒になって母親をけなすことが正しいのでしょうか。確かにそれで父親の機嫌はよくなり,自分に被害は及ばないかもしれませんが,自分の身を守るために虐待者へ同一化することは,母親への裏切りと感じられ,強い罪障感(ざいしょうかん)をもつことになります。このように,DVがある家庭の中では,子どもがどのような態度を取っても強い不安や葛藤,時には暴力そのものから逃れることができなくなるのです」(加藤尚子「虐待から子どもを守る! 教師・保育者が必ず知っておきたいこと」38頁)
【★2】 「子どもに与える影響」「暴力を目撃したことによって,子どもに様々な心身の症状が表れることもあります。また,暴力を目撃しながら育った子どもは,自分が育った家庭での人間関係のパターンから,感情表現や問題解決の手段として暴力を用いることを学習することもあります」(内閣府男女共同参画局「ドメスティック・バイオレンス(DV)とは」)
【★3】 児童虐待の防止等に関する法律2条 「この法律において,『児童虐待』とは,保護者…がその監護する児童…について行う次に掲(かか)げる行為(こうい)をいう。 (略) 四 …児童が同居する家庭における配偶者(はいぐうしゃ)に対する暴力(配偶者…の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及(およ)ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著(いちじる)しい心理的外傷を与える言動を行うこと」
【★4】 警察庁生活安全局少年課長,警察庁生活安全局生活安全企画課長,警察庁生活安全局地域課長,警察庁刑事局刑事企画課長,警察庁刑事局捜査第一課長平成28年4月1日「児童虐待への対応における関係機関との情報共有等の徹底について(通達)」(警察庁丁少発第47号,丁生企発第196号,丁地発第51号,丁刑企発第38号,丁捜一発第43号)
【★5】 刑法208条 「暴行を加えた者が人を傷害するに至(いた)らなかったときは,2年以下の懲役(ちょうえき)若(も)しくは30万円以下の罰金又(また)は拘留(こうりゅう)若しくは科料(かりょう)に処(しょ)する」
刑法204条 「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」
【★6】 憲法13条 「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」
【★7】 憲法24条1項 「婚姻(こんいん)は,両性の合意のみに基(もとづ)いて成立し,夫婦が同等の権利を有(ゆう)することを基本として,相互(そうご)の協力により,維持(いじ)されなければならない」
同条2項 「配偶者(はいぐうしゃ)の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項(じこう)に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない」
【★8】 もちろん,夫から妻に対する暴力・暴言だけでなく,妻から夫に対する暴力・暴言もありますし,同じようにけっして許されないことです。ただ,実際は,圧倒的に夫から妻に対する暴力・暴言のほうが多いのが実態です。平成27年度,全国の配偶者暴力相談支援センターで受け付けた相談総数11万1630件のうち,女性からの相談が10万9629件,男性からの相談が2001件でした(平成28年9月16日内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターにおける配偶者からの暴力が関係する相談件数等の結果について(平成27年度分)」)
【★9】 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
【★10】 内閣府男女共同参画局のウェブサイトに,相談先などの情報が詳しく載っています。http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/index.html
【★11】 【★9】の法律では,結婚していなくても,同居中のカップルでも対象になります。また,同居していないカップルでも,「デートDV」が問題になっています。NPO法人エンパワメントかながわ,ガールスカウト日本連盟らが2016年に実施した調査では,10代の女性43.8%,男性26.7%が,交際相手からのDVを経験していたことが明らかになっています(毎日新聞2017年3月13日「デートDV 経験10代女性の44% NPO広域調査」)。papaga